3.保育における愛着形成(7)
保育条件がいいか悪いかだけで、保育者たちの保育姿勢が決まるものではない!これは私が無認可共同保育所で出会った保育者の方々から実感したことです。実に親切で前向きで温かない先生たちでした。組合の要求で賃金引き上げをし、配置基準をよくしても保育がよくなるとは言えない。これもよく見聞きしてきた事実です。しかしいい保育条件であればいい保育をして欲しい。
こんなことを研究課題としてどう取り組んだらいいか、思案している最中に好機が訪れました。1980年に行政改革という取り組みが開始されて、国基準を上回っている自治体の基準を見直す動きが出てきました。例えば保育者の受け持ち人数ですが、1歳児の場合、国は1対6でしたが、都基準は1対5。自治体によっては1対4というところもありました。当時一人先生を雇うと三百万くらいかかる時代でした。ですから、配置基準をちょっと変えるということだけでも、自治体にとっては大きな財政的負担を負うことになります。その自治体や組合の努力を維持するためには、基準改訂がどのようないい保育を生み出しているか、その良さを明確にする必要があると考えました。
国基準に戻せという政財界からの行革の嵐の中で、私のささやかなデータ収集が始まりました。実習園訪問とか知り合いの園の見学とか、とにかく園訪問する機会をとらえて、1歳児の食事場面の観察記録を取りました。食事の場面に着目したのは、子どもが動かないので、初めてのクラスでも記録しやすいと考えたからです。一つのテーブルについている先生とその周りにいる子どもたちがどんなかかわりをしつつ食事をするか、そこには生活文化のあり方や「保育者と子ども」のかかわり方・頻度などを通して、なんらかの質が捉えられるように思いました。当時はビデオが普及していなかったので、テープレコーダーを持参して音声を録音し、他は筆記記録によるデータ収集でした。
それらの園から保育条件が都基準よりよい条件の下で食事をしていた3園のデータを起し、「保育の指導過程に関する一考察」という論文にまとめてみました。一つのテーブルにいる子どもたちに保育者がどうかかわったかをカテゴライズし、かかわりの頻度を出しました。その結果は、A園は平均25回、B園は8回、C園は24回と、園によってかかわりの頻度が大きく違うことが見えてきました。また、そのかかわりの中身も、カテゴライズした項目にそって分類していきますと、大きな違いが見られました。
こうした研究が保育現場で理解され、保育の見直しに活用されたら…との思いで、知り合いの園長先生たちに、論文の抜き刷りを配りました。そうしたら、「諏訪さん、こういう研究って現場に役立つじゃないの!」と言ってくれる園長先生が出てきました。40歳の頃でしたから嬉しかったですねぇ。その冊子は増刷に次ぐ増刷で、5,000部ぐらいは出たかと思います。現場に役立つ研究ってこういうものなのかと実感し、初めてヒットを打ったような打者のような感じになりました。それ以降は現場に入って研究データをとり、それを基に実践を振り返り実践を変えていく…研究と実践をリンクさせた形でやらせてもらってきました。