5.会場の皆様から頂いたご質問とその回答(4)

質問10(匿名)

前述の表「育て直しと発達の里程標」の見方。このシンポジウムに参加できなかった職員に伝えるためのポイントを教えてください。

回答10その1(井原)

前述の表の見方 発達心理学と育て直しの重ね合わせの図ですね。例えばこの発達の指標は心理学というよりも、むしろ保育学で、よくであう事象でしょう。一番左が、より小さい年齢です。例えば、ミルクのような言葉(解釈)は、発達心理学的にみて、人生の初めに環境としての母親からしてもらうこと(母親とは限らない)ですが、私は症例の中で小さい時のこうした、全面的に命を肯定してもらう体験をしていない人で、そのことがケースの展開点でとても重要な意味を持つ事態に出逢ったのです。つまりカウンセリングで出てくる、欠けたものへ気づくことによって、普通は気にならない発達心理学上のポイントがあるのだと気付いたのです。そんな目で見ると、例えばみなさんも目にされることの多い、バンドエイドを貼ってあげることが、手当てすることという事象であり、この表では4歳くらいになっているので、その持つ意味が意識的にも分かり、そうであるがゆえに人にも要求するので、目につきやすいものです。しかしこれが必要なポイントであるということを知っていると、こちらの接し方や態度が的確で有効なものになるのです。17のインデックスがありますので、想像を膨らませて、思いを巡らせてみて下さい。本としては、「子育てカウンセリング 育てなおしの発達心理学 福村出版」をご覧ください。参考になると思います。ただし、このインデックスについて詳しく話している講義が、現在おります早稲田大学人間科学部の「eスクール」という通信教育で聞くことができます。

回答10その2(前川)

アタッチメントは乳幼児が恐れや不安を感じたときに特定の人(主に養育者)を「安心・安全の基地(安全基地)として認識しくっつこうとする、生まれながらにして備わった行動システムです。アタッチメントの理論は精神科医ボルビーによって築かれました。アタッチメントの個人差は臨床心理士エインワーズにより開発されました。この手続きは次の八つのエピソードからなっております。

第1エピソード 導入場面

親子を部屋に案内して、親子それぞれの場所を指示する。

第2エピソード

親子が部屋に一緒にいて、子どもはおもちゃを自由に探索する。

第3エピソード

そこに、見知らない女性が入ってきて、1分間は黙って座っているが、次の1分間で親とおしゃべりをして、最後の1分間で子どもと関わる。

第4エピソード

見知らない女性が子どもと関わっている間に親が退出する。見知らない女性と子どもだけの場面となる。

第5エピソード

親が部屋に戻ってきて子どもと再会する。見知らない女性は退室して、親子だけの場面となる。

第6エピソード

親が子どもにことわってから、子ども一人残して退室する。

第7エピソード

先ほどの見知らない女性が部屋に戻ってくる。

第8エピソード

親が戻ってきて子どもと再会する。見知らない女性は退室する。

エインズワースはB-タイプ(安定型)、A-タイプ(回避型)、C-タイプ(両価値型)の三つのアタッチメント・パターンに分類しました。その特徴は次の通りです。

Bタイプ(安定型)

親を安全基地として利用して、再会時には親を歓迎し、分離によって機嫌が悪くなってもすぐに機嫌が直ります。これが安定したアタッチメントです。

Aタイプ(回避型)

一人で遊び、親にほとんどかかわることなく、再会時には親を回避します。

Cタイプ(両価値型)

はじめから遊ぶことができず、再会時には親に抗議を示したり、抱かれたがっているのに降りたがるという両価値的な行動を示し、ずっと不機嫌が続きます。

AタイプとCタイプが不安定なアタッチメントになります。

重要なことは、こうしたSSPでみられる個人差は家庭訪問で観察された行動と対応するものです。つまり、Bタイプの子どもは家庭でも親がいる限り機嫌がよく活発に遊び、Aタイプの子どもは何かとすぐに親に対して怒りを示してすねてしまい、タイプの子どもは家庭でもぐずぐずといって不機嫌が続きます。

アタッチメントは子どもの発達の基本でこれが正常に育っていないと、その後の心の発達が障害されます。「育て直し」により改善しますが、異常を早期に気付いた方が支援は容易です。保育園に養育者が迎えに来たときの乳幼児の行動でアタッチメント・パターンがある程度推察されます。どのタイプが予測されるかです。

その後の研究によりメインはどのタイプにも属さないDタイプ(無秩序・無方向性)が存在することを発見しました。これは虐待を予測されるパターンとされています。

  • *近藤清美:アタッチメントの個人差(チャイルドヘルス22巻2号、2019.2. 15-18ページ引用)