2.アタッチメントと育て直し(2)

私の好きなイギリスのウイニコットという分析医で、かつ小児科医の人がいます。小児科の仕事もずっとやっていて、同時に心の分析、治療もやっていたという、私はそういう経歴自体がとても好きなんですが、彼が言った言葉の中で、「ほんとうに遊べる人は病気にならない」と言うのがある。これは体の病気ではなくて、心の病気のことです。また、彼は、1950年代の当時から、子どもの病気の半分以上は情緒的な問題だというふうに見抜いていた。ということで、座右の銘にしております。

ついでに言うと、彼が言った言葉で、「ひとりの赤ちゃんなんていうものはいない」というのがあります。小児科医としての経験から言ったのですが、これもとても深い言葉です。赤ちゃんというのは大体お母さんの膝に乗っかって小児科の診療にやってくることを彼はよく知っていた。その状態から、子どもがどういうふうに育ち、自立し、一人立ちして離れていくかを見ていた人です。

私は小嶋先生の鬼っ子でしたので、真面目にいう通り勉強していれば学者になったんでしょうけど、それはやめました。私に一番関心があったのは、アタッチメントが壊れちゃって、あるいは虐待的に壊れたというのはもっと次元が違いますけれども、そうじゃなく、通常の生活の中で壊れた人をどうやって直したらいいかでした。しかも小児科でしたので、育児相談から始めて、「こういうふうにやったら、育児はいいのじゃない」と、お母さんと一緒に考えてやってきました。壊れたというのは言い過ぎです、足りなかったがいいですね、足りなかった子どもたち、親子を、どんなふうにそこから回復させればいいか考えてきた。

甘えでも依存でもいい、それが子どもを育てるという認識が基本です。依存と甘えはちょっと違います。甘えというのは、きっと私が一番先にスライドで述べた、愛情関係だけじゃなくて、遊びも入っている。子どもって基本的には遊び好きです。我々もそうです。私は学生にはいつも、修士論文を書く人にも、こんなに大変なことをやるんだから、楽しくやらなきゃ続かないよって言います。遊びなくしては困難なことはやれない。本好きなので、本がお友達みたいなところもあり、万巻の書物を読みましたが、あとは前川先生のところで小児科の臨床をやって、今振り返ってみると、楽しいことでした。

よく看護師さんに、「先生、大変な話ばかり聞いて頭がおかしくならないですか」と聞かれました。「もともとおかしいですから」といったら冗談が通じるかどうかわからないので、「それはとても楽しいことで、いろいろな人の人生を一緒に歩いていくという、おもしろおかしい遊びはあるけど、こんなに深く、かつ、人生を何人分も生きられることはない」みたいに答えました。ちょっと格好つけた言い方ですけれども、ほんとうにそう考えてました。

それが多分ずっとこういう仕事をやってきて、今は臨床はやっていません、学生さんが臨床の相手です。今の若者は大変だと思います。どう情緒的に触れあえばいいかとかわからない、経験してないし、教えてももらってない。ある偏差値の高い大学でロールプレイをやらせると、お母さん、お父さんの役でプレイセラピーをするのはみんなできるけど、子どもの役をやらせるとフリーズしてしまう、それぐらい知的に、特にそこは、名前は言えませんけど、とても知的な大学なので、そういうふうに知的な部分ばかり発達していて、情緒は育っていない、AIみたいな学生たちが多い。スマホは情緒の発達を阻害すると言いますが、無しでは若者と付き合えない。私も実は昨日、スマホにかえました。遊び心を刺激されてはまりますね。