1.子どもの心の発達(1)

ご存じだと思うのですけど、子どもの心は母親の養育態度に影響されます。子どもを思う母親の愛情が強過ぎても弱過ぎても、心は育ちません。母親の関わり方には、過剰な関わり方、適切な関わり方、それから希薄な関わり方の3種類があります。希薄と過剰はどちらも程度がひどくなるほど、子どもの心は育たなくなります。

妊娠中の母親には子どもを育てる力が、胎児には育つ力が遺伝的に組み込まれておりますが、子どもを生んだだけではスイッチが入らないようにできております。肯定的妊娠で周囲に支援する人が存在する母親は、分娩と同時に同調する能力が芽生え、赤ちゃんが泣くと、おむつをかえたり、抱いたり、母乳を与えたり、あやしたり、世話をして赤ちゃんを泣き止ますし、快の状態にします。この反復により、赤ちゃんは、自分は守られている、安全だ、母親は信頼がおけると、人に対する信頼感が芽生えます。これが子どもの心が育つ第一歩です。それから後は赤ちゃんが出すサインに母親が応え、母親が出すサインに赤ちゃんが応え、赤ちゃんは赤ちゃんらしく、母親は親らしく段々と育って行きます。ただここで注意しなければいけないのは、6か月児の母親は6か月の未熟な何も知らない母親であると言うことです。これを母子相互作用といいます。赤ちゃんは「触れ合い子育て」のための不思議な能力を持っています。赤ちゃんは、目が見え、人の顔の輪郭をしたものを最もよく見ます。最もよく見える距離が20センチプラスマイナス3センチで、これは母乳を与えている赤ちゃんと母親の目の距離です。新生児は、子どもを育てている母親の声に最もよく反応します。母親の声や匂いがわかり、そちらに抱きつくような動作もします。新生児は、世話をする人のまねをしたり、リズムをとって身体を動かしたりします。

妊娠中の母親には子どもを「育てる力」が、胎児には「育つ力」が遺伝的に組み込まれています。
子どもを産んだだけでは両者共にスイッチが入らないように出来ています。

母子相互作用のための
赤ちゃんの不思議な能力

  1. ①目が見える:人の顔の輪郭をしたものを見る。
  2. ②最も見える距離は20cm+、-3cm
    母乳を与えている、母と赤ちゃんの目の距離。
  3. ③子どもを育てている母親の声に最も反応する。
  4. ④母親の声や匂いが判り、そちらに抱きつく動作をする。
  5. ⑤新生児の模倣動作:世話をしている人の真似をする。

富山にいる私の息子夫婦に赤ちゃんが生まれ、北海道にいる息子の妻の母親が赤ちゃんの世話をしに来ておりまして、私たち夫婦も孫の顔を見に行った時の話です。向こうの母親が「赤ちゃんを世話していると真似をする」と言うのです。挨拶を手短にして撮ったのがこの写真です。語り掛けると口を開けて真似をしております。この孫娘は、現在、高校に行っています。

同調能力に影響を及ぼす因子として、妊娠中から出産まで愛着を与え続けられている母親は、出産後も赤ちゃんへの同調がよい。母親自身が過去によい愛着を体験している人は、同調する能力が高い。反対に、トラウマとかは愛着行動を阻害する強い不安や鬱は同調する能力を妨げるということです。

同調を阻害する因子は、いわゆる要支援家庭のことですが、時間がありませんので後でこの表を見ておいてください。

同調を阻害する因子:要支援家庭

  1. ①親個人の問題:
    10代の親、慢性の身体的・精神的病気、知的障害、教育の欠陥、人格の障害、アルコール中毒、薬物乱用、親になれない親等
  2. ②経済的・家庭的問題:
    貧困、ひとり親家庭、失業、定職なし、不穏な夫婦関係、社会的孤立
  3. ③子どもの問題:
    慢性疾患、障害児、育て難い児、多胎

どの民族でも、肯定的妊娠の場合は、お産した後、母親は赤ちゃんを抱いたり、さすったり、語りかけたり、母乳を与えたり、自然のスキンシップを行います。新生児も不思議な能力で母親に反応し、ここで初めて親と子の「触れ愛」が起こります。「触れ愛」に愛という字を書いたのは、愛情がない母親は触れ合いの動作が起こらないからです。この「触れ愛」により、母親の「育てる力」と赤ちゃんの「育つ力」にスイッチが入ります。