3.マルトリートメントが子どもの人生に影響を与える

また、脳が最も発育する幼少期に、不適切な関わりのせいで愛着が形成されない場合、特に精神面において問題を抱えてしまうことがあります。具体的には、うつなどの心の病として出現したり、幼少期に問題がないようでも成人してから健全な人間関係が結べない、達成感を感じにくい、意欲が湧かないなどのさまざまな問題が現れたりします。

マルトリートメントは、たとえ死に至らなくても深刻な影響・後遺症を子どもに残し、過酷な人生を背負わせることになります。虐待の日常化は「支配-被支配」といった誤った関係性を家庭内に生みます。このような環境のなかで暴力の恐怖におびえながら成長した子どもは、他人に対して不適切な接し方を身に付けてしまう可能性があります。

一方で少子化・核家族化が進む社会では親も苦しんでいます。育児困難に悩む親たちは容易に支援を受けることができず、ますます深みにはまっていきます。「虐待の連鎖」が言われて久しいですが、マルトリートメントを経験した子どもたちの3分の2は自らが親になってもマルトリートメントをしないという事実にも目を向けてほしいと思います。現代社会には、育児困難に悩む親たちを社会で支える「とも育て(共同子育て)」が必要です。

養育者である親を社会で支える体制は、いまだぜい弱なのが現実です。虐待を含めたマルトリートメントを減少させていくには、多職種が連携することで家庭、学校、地域を結びつけ、子どものみならず親たちとも信頼関係を築きながら、根気強く対応していくことから始めなければなりません。

参考文献

  1. 1)友田明美.「新版いやされない傷 - 児童虐待と傷ついていく脳」,診断と治療社,2012.
  2. 2)友田明美.「子どもの脳を傷つける親たち」,NHK出版,2017.
  3. 3)友田明美,藤澤玲子.「虐待が脳を変える - 脳科学者からのメッセージ」,新曜社,2018.
  4. 4)友田明美.「脳を傷つけない子育て マンガですっきりわかる」,河出書房新社,2019.
  5. 5)友田明美.「その育児が子どもの脳を変形させる」,PHP研究所,2019.
  6. 6)友田明美.「親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる」,NHK出版,2019.