3.保育における愛着形成(2)

1.愛着理論との遭遇

残念なことに、私はJ.ボウルビィ(1907-1990)を毛嫌いするところから始まり、徐々にその理論をバックボーンに保育実践現場とかかわるようになって行きました。といいますのも、その当時私は、長男を出産して間もない新米ママで、「子育ても仕事もしたい」と思い詰めていたからでした。ボウルビィを読むと自分が責められているように思い、あえてボウルビィに目をふさいでいたのでした。

私は長男を生後6カ月から、長女を43日目の産休明けから無認可保育園に預けてずっと共働きの生活を送ってきました。今は産後休暇や育児休暇がありますが、長女出産時国家公務員だった私には、6週間の産後休暇しかありませんでした。50年も前のことではありますが…。

(1)3歳までは母の手で- あなたは「3歳児神話」を信じていますか?

ここにはかなりキャリアを積んだ先生方もいらっしゃるかと思うのですが、お子さんを保育園に預けて働き続けてきた方、手を挙げてみてくださいますか。たくさんいらっしゃいますね。その際「3歳までは母の手で」という3歳児神話について、皆さんはどう思われましたか。今までに出会った保育園の先生の中には「他人の子は預かるけど、自分の子は預けない!」と言い切る先生方がたくさんいらっしゃいました。共働きの親の子どもたちは、長時間・長期間保育園で育つわけですから、この3歳児神話は、母親にとっても、預かる側の先生にとっても、かなり重い問題として存在するように思います。

下の表は「3歳までは母の手で」に関して、「預ける側の母親の思い」と「預かる側の保育者の思い」をまとめたものです。青い字の部分は50年前、私が32歳ぐらいのときに友人と本を出すに当たって、子どもを園に預けた方々にインタビューをしたときのもの。その下の黒字の部分は現代のものです。50年前と現在とそんなには変わっていないです。

3歳までは母の手で

私は大学院生であった24歳のときに結婚をして、25歳で母親になりました。私の父は4人の子どもを残して戦死し、戦争未亡人となった母は疎開先で株を売って暮らしていましたので、学校に出す職業欄はずっと「無職」でした。私はなぜかこの「無職」が嫌いで、私は無職になりたくない、ずっと仕事を持ち続けたいと思っていました。

ですから、子どもが生まれたとき、すごく焦りました。とにかく自分の希望を実現するためには、この子をどこかに「預けなければ」やっていけないと思いました。それで、友人たちにもいろいろ助けてもらって、やっと見つけたのが、無認可共同保育所でした。そこは女子高の先生たちが集まって作った6畳一間の小さな保育所で、学校の近くに住む先生が自宅の一室を保育室として提供してくださっていました。私は、ためらいながらもそこに6か月の息子をお願いすることにしました。そこから私は「3歳までは母の手で」バッシングに直面することになりました。その第1号は姑でした。「この頑是ないものを他人様に預けるなんて!」という言い回しで、私の胸を射抜きました。

第2号は兄嫁で、私に面と向かっては言わずに、私の坊やをあやしながら「こんなにかわいい子が他所に預けられているのねぇ」と聞こえるように言うのです。そして第3号は私の実母で、私の代わりに保育所に迎えに行ってもらうと「保育所から連れ帰えると保育所の匂いがする!」「早速お風呂に入れて可愛いいTちゃんにしなくては…」とズケズケ言って私の感情を逆なでするわけですね。身内のバッシングはお世話になるので反論も出来ず、結構きついものがありました。

また、夕方にかけて発熱した子を小児科に連れていくと、「昼間はどんな状況でしたか?とか便はどんな匂いだったか?どんな形状だったか?とあれこれ聞かれるわけですが、悲しいことにちゃんと答えられません。でも、「この子を保育所に預けている」とは、先生の前でなかなか言えない自分がいました。バッシングされるのが怖くて…。

ですから、子どもを保育所に預けるとことによって、世間が狭くなるというか、私を批判的に見る人が増えてくるというか、何となく肩身の狭い感じがいたしました。この表の中にも「鬼のような親と言われた」とか、「大学出の母親は非常識!って言われた」とか、座談会の中でお母さんたちはぽろぽろ泣いて、辛い心情を語ってくれました。そして今も、お母さんたちは、わが子を預けようと思ったときに、ものすごく揺れているのではないかと思います。「3歳児神話」が強く残る日本の場合は、働き続けることを選択するお母さんは3割くらいにとどまっております。そういう意味で、「3歳までは母の手で」という3歳児神話は、昔も今も女性たちに大きな影響を与えており、足枷にもなっています。

そこに「保育者の育児意識の日韓比較」を挙げておきました。韓国の保育者っておもしろいのですが、「母親にはとてもかなわない」と思いつつ、でも、「3歳児神話はそれほど信じていない」というか、「預かっても大丈夫」と思っている。日本の保育者よりプロ意識が強いような感じもしますね。しかし韓国でも「3歳までは母の手で」という意識は高学歴の女性を含めて高く、特に専業主婦の道を選んで子どもを幼稚園に入れた女性は、その思いが非常に強いのです。ですから、保育園に預けて働こうとしている母親たちに、同じ母親でも対立し合うような関係が生まれてくるわけです。そのようなとき、預かる側の先生方がどういう態度をとるかで、預ける側に立った母親は救われたり傷つけられたりすることになるわけです。