子どもの遊びに潜むリスク

日本小児保健協会(2011)(7)による調査報告では、幼児の遊びの内容として、近年、TV・DVDやゲーム機が大きく増加していました。5〜6歳児の6割がゲーム機で遊んでいました。操作時間は10年前に比べ、1時間未満が5%→ 50%、1〜2時間74%→32%、2〜3時間13%→7%、3〜4時間2%→0・4%となり時間の短縮はみられましたが、毎日1時間程遊ぶ幼児が半分いることが明らかにされています。一方で、絵本も大幅な増加がみられていました。絵本を介した語りかけから、心触れ合うきっかけをつくる活動として、「ブックスタート」が2000年頃から各自治体の事業として展開されました。その影響が考えられます。

子どもの遊びへの保育者の関わりについて質問すると、「子どもの主体的な活動を大切にし、遊びや他の子どもとの関係のとり方を必要に応じて援助する」と回答する者が9割近くを占めます。一方で、「遊びの中に課題を設定し、一つの目標に向けて子どもが意欲的に活動できるように関わっている」「集団遊びに積極的に参加するように促している」といった保育者の意図に基づく関わりはいずれも1割未満でした。確かに遊びの中心は子どもであり、子どもの活動がより発展するように援助することを心がけることは重要です。しかし、その遊びの内容が偏っていたり、他者とのやりとりがない遊びや集団参加しない子どもがいる場合には、保育者の積極的な関わりが求められます。ひとり遊びやリアルな玩具による遊びしかできない子ども、他者とのやりとり遊びや役割遊びができない子ども、相手の気持ちを読みとる社会性が身に着いていかない子どもが増えていく心配があります。さらには子どもの健全な育ちが歪められる恐れも推測されます。TV・DVDの視聴やゲーム機などで遊ぶ子どもが著しく増えていることと、他の子どもとうまくコミュニケーションがとれない子どもが増えていることの関係性は高いものと考えられます。遊具を使った遊びは、機能的遊び段階→技術的遊び段階→社会的遊び段階への移行がなされていきます。近年、社会的遊び段階に移行できていない、またはそうした遊びが苦手な子どもが増えています。

文献

  1. (1)ベネッセ教育総合研究所(2016):園での経験と幼児の成長に関する調査―卒園前の年長児をもつ保護者を対象に―.
  2. (2)ベネッセ教育総合研究所(2015):第5回幼児の生活アンケート.
  3. (3)カイヨワ(多田道太郎・塚崎幹夫訳)(1971):遊びと人間(増補改訂版).講談社.
  4. (4)加藤泰彦・他(2007):子どもの遊びと発達1―ピアジェの構成論と物と関わる遊び.大学教育出版.
  5. (5)河崎道夫(編)(1983):子どもの遊びと発達.ひとなる書房.
  6. (6)枡千晶・橋本創一(2016):インクルーシブ保育における特別な支援を要する子どもの活動参加に関する調査報告―参加可能な遊びに着目して―.小児保健研究、75(4).
  7. (7)日本小児科保健協会(2011):幼児健康度に関する継続的比較研究.平成22年度厚生労働省科学研究費補助金成育疾患等次世代育成基盤研究事業.
  8. (8)ピアジェ・他(赤塚徳郎・森楙監訳)(2000):遊びと発達の心理学.黎明書房.
  9. (9)仙田満(2009):こどものあそび環境.鹿島出版会.