予防接種
日本は欧米に較べて予防接種が遅れている、ワクチンギャップがあると言われてきました。最も大きなギャップは、接種費用助成のある「定期接種のワクチン」が日本には少ない(接種費用が自己負担となる「任意接種のワクチン」が多い)ことです。その根本には、「ワクチンで予防できる疾患はワクチンで予防する」というコンセンサスが日本には欠けていたことがあります。
なぜこのようなギャップが生まれたのでしょうか?1980年代、我が国において、副反応の少ない無細胞百日咳ワクチンや、免疫不全者にも使用できるほど安全な水痘ワクチンなど、高い水準のワクチンが開発されており、世界的にみても数少ないワクチン開発国の一つでした。しかし、1970年代に種痘(天然痘ワクチン)やDPT(ジフテリア・百日咳・破傷風三種混合)ワクチン接種後の重篤な副反応が報告され、また1989年には定期として接種されたMMR(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹新三種混合)ワクチンによる無菌性髄膜炎の副反応の報告があり、これに季節性インフルエンザワクチンの効果を疑問視する一部の意見などが重なり、ワクチンへの不信感がじわじわと広まってしまったようです。さらに、1970年代に提訴された予防接種禍集団訴訟に対する高裁判決が1990年代にあり、国側の敗訴あるいは和解となったことから、「予防接種は効果に乏しく副反応が多い怖いもの」との認識が、市民のみならず医療者の間にも定着してしまいました。これを受けて国(厚生省)は1994年に予防接種法を改正し、定期接種はこれまでの受けなければならない「義務接種」から接種が勧められる「勧奨接種」に変更しました。これにより、低下気味にあった予防接種率がさらに低下してしまいました。このため、我が国では麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜなど「ワクチンで予防できる疾患」の流行が繰り返されており、これを旅行者が欧米に持ち込むため、例えば米国では「日本は麻疹の輸出国」などと揶揄されていました。最近は、我が国における「ワクチンで予防できる疾患」の流行状況も変わってきましたので、その幾つかについて現況をみてみましょう。