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座談会「子どもの心を育てる」

人類の歴史と脳の発達

前川皮膚の刺激とか、生身のふれあいとかが出ましたので、ご参考までに、人類の歴史と脳の発達ということに少し触れさせてください。

20万年前に、人類は、類人猿の仲間、チンパンジーから枝分かれして、地球上に出現しました。類人猿の仲間で、地球上で繁栄しているのは人類だけです。人間だけが「三項関係」を理解し——三項関係というのは、お互いに一つのものの意味がわかって、それに対して行動ができるということです——共同作業ができることが繁栄の原因と考えられております。

20万年の間に、人間の大脳半球、ことに前頭連合野、他の連合野も異常に発達しました。最近、「三項関係の理解」に関する脳内の働きとして、内側前頭前野——これはちょっと、場所がこうではないかもしれませんけれども、要するにミラーニューロンの存在が発見されています。他者がある動作をしているのを見ると発火し、また、自分がその動作をやるときも発火する。人間は、自分の動作や気持ち・感情・知識などと、他者のそれらを合わせ鏡のように見ることができるのです。チンパンジーと違い、ヒトは、「三項関係の理解」やミラーニューロンをもとにした進んだ認知機能があるので、共同作業ができるのだと考えられています。

このように20万年の間に進化してきた脳の構造や機能を「遺伝進化」と言います。これに対し、科学の進歩による生活様式の進化を「文化進化」と呼びます。ここ20〜30年のインターネット、携帯、メール、スマートフォンなどによる生活様式の変化は著しく、共同作業や生身のふれあいをしなくても生活ができるようになってしまいました。

このような文化進化を、人間が進歩(遺伝進化)したと錯覚しているのではないでしょうか。遺伝進化が文化進化に追いついていけないのが現状です。この歪みによっていろいろの問題が起こっています。生身のふれあいをしなくては、子どもは育たないようにできているのに、それを疎かにしているのが人類の発生と脳の発達より見た事実です。

山口親子間の生身のふれあいですとか、そういうものが減っている背景に、今おっしゃったような文化的な進化が非常に大きいのではないか。我々は、そういう文明的な進化の産物とどのようにつき合っていったら、子どもの心を守るというか、育てることができるのか。そんなことを考えています。

冨田最初にオギャアと生まれてきた直後から始まる母子関係と、その後に父親的なものも加わった三者関係が非常に大切です。日本は母性社会ですから、基本的に母子関係は多くの場合、問題ないのですが、その後に続く父子関係が弱い文化です。ところが、最近では最初の母子関係も怪しくなる傾向が出てきていますが、それでも父性社会の欧米に比べれば、かなり残っていますから、子どもはコレでも幸せに育っている方です。伝統的に弱い父子関係は、当然のことながら、もっと育てる必要があります。

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