前川ノーテレビデーとか。
冨田ただ、そこまでやるとちょっと……。我々は住んでいる時代を全否定するわけにはいかないと思います。その意味で、問題ばかりだけれど、今さら子どもに「テレビゲームやコンピュータを使うな」と言うのは難しいと思いますから、年齢など考えながら厳しく制限を付けて、与えていく必要があります。
ところが、ほとんどの親は「子どもが言うことをきかない」と言います。それは、幼児期に子どもの言うがままになっていて、思春期になって急に「言う事をきけ!」と言っても無理なことがわかっていないのです。先ほど言った2歳ぐらいから躾をして、わが身を美しくする育児をしていれば、思春期にもある程度の逸脱行動が出ても、社会的規範の中に納まるだけでなく、親の言う事もある程度は聞くのです。
戦後教育の基本は子ども本位になり、「育てる」よりも「育つ」のを待つようなことばかり美化してきました。特別才能のある子ども以外は、育たない部分が多くありますから、教え・育て、時に厳しく制限を加えるのが、親や教師の努めです。発達障害はある意味で、育つべき所の一部に育たないものがあるわけです。やはり「育てる」という形でしつけを適切な年齢で厳しくしていけば、思春期になって少しぐらい社会的規範から外れたことしても、大きく外れないと思うんです。これは、私が臨床を始めて以来、常に思い続けてきたことですが、現状はだんだん悪くなっていますね。
前川正高先生、いかがですか。
正高しつけの話に通じるんですけど、私は犬山にいて、京大に行くときに地下鉄を使うときがありまして、京都から今出川まで地下鉄の烏丸線に乗って行きます。今出川の駅は当然ながら階段なんですけど、横に障害者用のエレベーターがあるんですよ。そのエレベーターがいつも満杯なんです。誰が乗っているかというと、学生なんです。みんなエレベーターに乗るんですよ。エレベーターの本来の目的は違うじゃないですか。高齢者と障害者のために、UD(ユニバースデザイン)で置いているものですけれども、それを平気で使うんですよね。
まあ、本人らも理屈ではわかっていると思うんです。学生やからアホではないわけで、一応それなりのことはわかっている。そんなもの使ったら電気代も無駄ですし、今どき節電言ってるし。わかっているんだけど、やっぱり乗ってしまうんでしょうね。ラクしたい。それが、しつけというか、道徳というものは体で覚えないかんというところだと思うんですよ。
そういう意味で言うと、頭がよくて偏差値が高くても、全然習ってきていない。知識はあっても、体にそれをたたき込まれるという経験を、今の日本はせずに子どもを大きくしている。