前川山口先生、いかがですか。
山口正高先生がおっしゃったことはまさにそのとおりだと思います。道徳教育の根本に身体性というのがすごく大事で、それは、人と直接、生のふれあいをすることで、相手の身体への共感というか、共振して揺れあったり、同じ表情をすることで共感というのは生まれてくると思うんですね。今の世の中はITのハイテクに囲まれているけれども、それは一方的な刺激でしかないので、それと身体を合わせるというのはほとんど不可能なことなので、それで相手の気持ちが読み取れないとか、思いやりが育たないとか、そういうことにつながっているのではないかとすごく思うんですね。
また、自分の子どもだけがかわいくて地域で子育てをしないという問題も、生身の身体から、いろんな人に抱っこされて育てるという伝統的な日本の育児方法が抜け落ちてしまった結果、自分の子どもだけしか見れないという風潮が強まっていると思います。ですから、スキッシップも母親だけがしていればいいというものではなくて、父親も大事だし、祖父母とか、近所の人とか、いろんな人に抱っこされながら、触れられながら育っていくというのが一番大事なところだと思います。今、そういう子育てが少なくなってしまっているために、いろんなところで歪みが出てきてしまっているのかなと思いましたね。
前川確かにそうですね。水岡先生、どうですか。何か提言はありますか。
水岡私は保育園の中で、挨拶も大切にしていますが、挨拶をできない親がいます。保育士が「おはようございます」と言うんですけれども「ほら、おはようって言いなさい」と子どもに言いますが、そう言っているお母さんが「おはようございます」と言えません。保育士は子どもたちに挨拶を通して、「おはよう。待っていたよ」と、あなたを受け入れてますよというメッセージを心から送るようにしています。
お母さんたちにも、コミュニケーションをとるために、挨拶や声掛けを行っています。タッチケアではないですけれども、「お母さん、疲れてない?」とか、肩をポンポンと叩いたりして、できるだけお母さんと触れ合うことを大切にしています。保護者の方と触れ合って、お母さんが少しでも困っていることを発信してくれるようにと思っています。園では長い子で朝7時から夜7時まで12時間お預かりするお子さんもいて、時間にゆとりがない保護者の方が増えています。できるだけ保護者の方と触れ合いたいと思っています。
先ほどの先生のお話ではないのですが、苦情を直接園に言えないんですよね。札幌市の保育課に電話でダイレクトに名前も名乗らずに、「園でこんなことをしていて」という苦情を言うのです。私は保護者の方に「お母さん何かあったら私に直接言ってください」ということを保護者会のときになるべくお話しするようにしています。