母子健康協会 > ふたば > No.76/2012 > 保育に必要な予防接種の知識 > 乳幼児期に必要な予防接種と接種スケジュール(5)

財団法人母子健康協会 第32回シンポジウム 「保育に必要な予防接種の知識」
2.「乳幼児期に必要な予防接種と接種スケジュール」

国立感染症研究所 感染症センター長 岡部信彦先生

ロタウイルスワクチンは下痢を防ぐワクチンです。ロタウイルスによる下痢は、乳児のときが一番重くなりやすく、重要なんですね。ロタウイルスは、かかった後にしっかり免疫ができるわけではなく、何回も感染してしまいます。もちろんゼロ歳でもかかるし、1歳でも2歳でもかかりますが、重症になりやすいのは一番最初の感染の時です。一番最初は、熱が出て、嘔吐があって、それで激しい下痢が出る。

私たちがまだ小児科のペーペーで、前川先生が現役のバリバリの頃は、そういう下痢を、乳児白色便性下痢症とか、赤痢に対して白痢という言葉を使っていたことがあります。白いうんちが出る。それがロタウイルスだとわかったのは約30年前の話で、それでようやくワクチンができてきました。赤ちゃんの下痢を防ぐというのが最大の目的です。でも、不思議なことに、白色便性下痢症というのは日本だけなんですね。同じロタウイルスの感染なのに、特に欧米は白くならない。その理由は全く謎です。

ところで以前は、下痢がひどかったら食べ物をやるのをやめなさい、水をやるのもやめなさいと言っていた頃がありました。けれども、それはよくないことなので、脱水症を防ぐためにちゃんと水分を丁寧にあげましょう、できたら電解質の入っている水のほうがいいですというのが普及して、いま、下痢時に脱水症、水分不足になる子どもは随分少なくなりました。それと相前後して、日本で白色便性下痢症がなくなった。

横井先生、白いうんち。余り見ないでしょう?

横井みんな薄い茶色ですね。

岡部当たり前のうんちの色になっている。これも原因がわからないです。ロタウイルスが決して少なくなったわけではないけれども、いろんな生活環境の違いではないかと思います。いずれにせよ、ロタウイルスは何回もかかるんだけれども、最初の一発が一番具合悪くなるので、これを防ぐ。そうだとすると早いうちに防がなくてはいけないので、1カ月とか2カ月とか、うんと早い時期になります。

ロタワクチンとして開発されたのは生ワクチンです。生ワクチンは1歳前にやってはいけないのではないかというのが、麻疹(はしか)や風疹の説明だったのですけれども、ロタウイルスワクチンを免疫異常の人がたとえ飲んだとしても、いままで重症で問題になった経験がほとんどない。ほとんどないという意味は、我々医学をやっていれば、「絶対」はないんですね。「稀に」「たまに」というのはありますけれども、その「稀に」「たまに」ぐらいを除いて、免疫不全の人もほぼ大丈夫。つまり、お腹の中を通るだけで、体の中に深く入り込むわけではないから大丈夫だろうということで、その点からも早い時期からのワクチン接種ということに、世界中でなっています。この場合、海外では珍しい免疫不全よりも、ポピュラーな下痢症での重症化を防ぐ方が重要である、という考え方になろうかと思います。

接種年齢にどうしてそういう差があるかということをお話してきましたが、そうすると、順番を決めなくてはいけない。さっき言った順番は、必ずしもぴしっと決まっているわけではないですけれども、かかりやすいというところから防いでいく、というのが基本になります。

それから、いま任意接種が増えていますけれども、日本は長い間、定期接種として結核を防ぐBCG、ジフテリア・破傷風・百日せきのDPT三種混合、経口生ポリオ、麻疹(はしか)、風疹、日本脳炎、このくらいをこのところの長い間やっていたので、みんなそれに意識がしみ込んでいたわけです。そこから先の話は後で横井先生から出てきますけれども、ほかの国を見ますと、その間にいろんなワクチンの開発が進んできた。どこの国でも、病気になるとお金がかかってしまいます。だから、早くワクチンで防いだほうがいいだろうという考えです。

それから、日本のように便利に急患で医療機関に駆けつけたり、毎日毎日、たとえば横井小児科医院がやっているというのはあまりなくて、なかなか病院も子供を連れて行くのは大変です。海外の医療費は押しなべて高く、ことに先進諸国は高い。お金はかかるし遠いしというのでは、なかなか行かない、いや行けないわけですから、そのぐらいなら早いところ予防注射をやって防ごうという意識が強くなります。そして予防注射がどんどん進んできた。日本はどちらかというと、その点で後れを取ってしまっている、というところになります。ワクチンにギャップを生じたので、ワクチンギャップなどという言葉も生まれました。

ここ数年、海外で使われていたワクチンが我が国でも多く使用が可能となり、その一方では出荷量や費用、接種順位や回数など、現場での混乱が生ずることになってしまいました。しかし、入れるものは入れたほうがいいだろう。でも、導入の優先順位になると、国としてこれを定期接種として多くの人に、勧めるためには予算が不足している。お金がないから、こっちが先なのかしら、後なのかしら……と。そうなるとこれは医学的な話ではなくなってしまいます。

ところで、ワクチンの種類、回数が増えてくると、子どもさんとその親御さんは、しょっちゅうワクチンをうけていることになる。いま、ばらばらにやると、インフルエンザを除いて小学校に入るまで30回ぐらい医療機関に行って予防接種を受けることになります。

では、外国はどうやっているのか。外国は、一々病院に行ったり、保健所のようなところでやることもありますけれども、そのチャンスがなかなかないので、できるだけまとめてやってしまおうという発想から出ているのが同時接種という方法です。同時接種というのはメリットとデメリットがあります。いいところは、一遍にできる。回数は少なくて済むわけですから、何回も何回も通う必要がない。

デメリットは、一回でたくさんの注射という痛み、大変さ。加えて国内で慣れていないための不安感。「大丈夫なの? そんな何遍もやって」。でも、たとえばDPTというのは同時接種なんですね。ただ、一つのバイアルに入るようになったというだけで、かつては、ジフテリア、破傷風、百日せきと、ばらばらにやったときがあるわけです。そういう意味では今の同時に多数のワクチンをそれぞれ接種するというのは過渡期のやり方で、将来的には、製品として同じように入っている混合ワクチンの方が、安全度も高いし痛む回数も少ないので、そういうふうになるでしょう。しかし現在では、とり得る方法として同時接種をやりますけれども、その不安感というのがどうしても残るでしょう。

でも、例えばヘモフィルスインフルエンザ菌にしても、肺炎球菌にしても、そういう病原体というものには一遍に私たちはさらされているわけで、同時に入ること自体、免疫的にはあまり不利になるような抵抗を生じていないことになります。小児科学会では、現在の予防接種で、同時接種によって副反応発生の可能性が増加したり、あるいはそれぞれの効果が減少する、といったようことはないという見解を示しています。

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