前川教育が間違っている。さて、どこから始めましょうか。昔は子どもの育ちに合わせて、子どもの欲求や気持ちを満たしていく当たり前の子育てができていたのです。それが今は難しくなっていると思います。
あるいは、保育の現場で、親子関係がまずくても、そこを修復する別の関係が保育園の中にはあると思うのです。それが園における子どもの心を育てる方法になるのではと考えます。水岡先生、今、保育園でおやりになっていることはどんな事ですか。
水岡今、保育園の中で大切にしていることは、ふれあいです。タッチケアを乳児に取り入れています。それをタッチケアサロンという形で、保護者の方に年二回、サロンを開いて、お母さん方に少しでも、こういうふれあいが大事だよということを伝えています。タッチケアの良さは、手技にこだわらず、わずかな時間でも触れ合えることです。保育現場の中でタッチケアをする機会の少ない私は、子ども達とすれ違った時にハイタッチをしたり、ぎゅっと抱きしめたりして、子ども達とのふれあいを大切にしてきました。こんなこともありました。
Aちゃんは、4歳でそれまで暮らしていた母親と別れて、父親と祖父母のいるこの地にやってきました。表情が硬く、言葉少ない姿が印象的でした。そんなAちゃんに心を込めて、朝会うと「おはよう、Aちゃん待ってたよ」と手を握ったり、抱きしめたりしていました。Aちゃんからは声が聞かれず、私のされるままになっていました。
二か月以上たった頃からか、Aちゃんの方から私の姿を見つけると、ニコッと笑って、「園長先生かわいい」と声を掛けてくるようになりました。それからは、会う度に毎回声を掛けてくれるのです。「ありがとう。Aちゃんもかわいいよ。大好きだよ」と言って心から抱きしめていました。そんなある日、Aちゃんが「園長先生かわいい、A、園長先生の言うこと何でも聞く」と言うのです。この子のメッセージの奥には、何があるのだろう。こんな小さな心の中に、どんな思いが詰まっているのだろうか?
時には遠くにいても、「こっちを見て」というようなサインを出し、じっと私の方を見ていることがあります。私の方も「見ているよ」とサインを送り返し、見つめてあげます。Aちゃんの「こっちを見て」という心の叫びが聞こえるようです。
それからAちゃんは、少しずつ明るくなり、友だちと関わって遊ぶ姿が見られるようになりました。Aちゃんとの短い時間での肌と肌のふれあいが心と心の触れ合いになり、繋がっていると思いました。今、私たち大人は子どもに寄り添い、触れ合い、子どもの心の声を聞くことを大切にしなければいけないと思っています。触れ合いは、ふれ愛なのではないでしょうか。