財団法人母子健康協会 第32回シンポジウム 「保育に必要な予防接種の知識」
3.「小児科医・園医の立場から—複雑で接種しにくい日本の予防接種」
東京小児保険協会副会長 横井こどもクリニック院長 横井茂夫先生
先ほど岡部先生から日本の予防接種スケジュールについて話がありました。アメリカの例を下に書いてあります。アメリカで0〜6歳までに必ず受ける予防接種です。日本では任意接種とか定期接種と書いてあって、準定期接種と書いてあるのは、地域によって自治体から補助金がつく接種です。これは正式な医学用語ではないですが、定期でも任意でもない、その真ん中ぐらいの意味、幾らか補助がついての準と書きました。これは正式な用語ではありませんけれども、そうやって見ていくと、アメリカでは、B型肝炎、ロタウイルス、DPT・三種混合、Hib、肺炎球菌、それから、ポリオなんですけれども、アメリカでは注射型のポリオです。それから、インフルエンザが毎年2回、麻疹、風疹、おたふくのMMRというワクチンをやっています。
それから、水痘。アメリカは水痘は2回接種です。日本は1回です。1回だから、保育園で水痘がはやったときに、ワクチン未接種で本当の水痘になる子と、予防接種をしている子で、保母さんたちが、「これ、水痘かしら?」「いや、わからないわね、でも、何かおかしいわね」「おかしいわね」と言っていると、熱も出ないで、数日間で治ってしまう。これが接種後水痘です。このようなことが起きてしまうので、アメリカでは予防接種を2回行います。それから、A型肝炎、髄膜炎、これは全部やっているんですよ。「エッ、こんなにやっているんだ」と思って見ると、こんなにできるかと思うぐらいやっています。
どうやっているかというと、アメリカでは、先ほど岡部先生がおっしゃったように、全部一緒のワクチンです。7種混合というワクチンを、アメリカも中国もオーストラリアも使っています。ですから、三種混合にHibワクチンとかインフルエンザとか混ぜて……同時接種、いやいや、1本に7つ入りなのです。だから、同時接種するかどうかと質問された方がいらしたんですけれども、ほかの国では同時接種というのではなくて、1本に7つ入りで、それを3回やると21個分が終わってしまうわけです。便利ですよね。このような複合ワクチンを接種できると、開業医の僕たちも楽です。スケジュールも考えないで済む。ところが、日本の場合には行政がいろいろ難しい面もある。それも行政側に言わせれば、「何かあったらいけないから」「責任を問われてはいけないから」というので、非常に細かく細かくしていくので、時間がかかりすぎるのがいまの混乱の状況です。ですから、ほかの国では同時接種という言葉はなくて、行くと、6つか7つ入りをポンポンポンと3回行っておしまいです。
アメリカは、ロタの生ワクチンを口から飲んだときに7つ入りを打ってしまう。お誕生になったところでMMR(麻疹・風疹・ムンプス)と水痘——これは4種の混合ワクチンの場合も、MMRプラス水痘という形で、同時に2本打つ場合もあります。これを1歳と4歳、2回打ちます。日本では、麻疹と風疹のMRワクチンを、1歳と年長で打っているわけです。プラス水痘とムンプスは1回だけ打っています。先進国は水痘の接種を2回行うので、小児科の外来でも、保育園・幼稚園に水痘の人はいないのです。いま水痘予防接種は任意接種でお金がかかるので、患者さんにはちょっと2回目の接種を勧められないのですが、自分の孫には2回打っています(笑)。というのは、愛子様が1回しか打ってなかったんですね。学習院に通う途中で、もらって、接種後の水痘になってしまったわけです。ですから僕が、「お母さん、愛子様が1回なのよ。平民は1回でいいんじゃないの?」と言うと、そうですねといって帰ってくれますネエ(笑)。
予防接種を打たなければ、病気にかかるしかないのです。水痘もおたふくも、予防接種をして、かかった場合、非常に軽くなる。これはある意味で免疫が少しはできている……できているので、軽く終わるんです。ですが、2回打たれれば抗体はグングンと上がりますから、病気になりません。
はしか(麻疹)も、私は生はしかの時代で、本物の病気になったから、一回で済んだように見えていますが、実際には日本のその時代には、3年ごとにはしかの流行があったので、生のはしかが終わった後も、3年ごとにはしかのウイルスを小学校とかでもらっていたんです。そのために、抗体が持続しているので、大人になってもかからない。実際には、麻疹にかかった人でも、その後、流行がない今の時代においては、2回もはしかになってしまう人がいるんです。ですから、2回はしかワクチンを打つと本当に病気はなくなるわけです。