母子健康協会 > ふたば > No.76/2012 > 保育に必要な予防接種の知識 > 乳幼児期に必要な予防接種と接種スケジュール(11)

財団法人母子健康協会 第32回シンポジウム 「保育に必要な予防接種の知識」
2.「乳幼児期に必要な予防接種と接種スケジュール」

国立感染症研究所 感染症センター長 岡部信彦先生

ところで、現状でポリオワクチンの年齢期にある子を持つ保護者の方々にとっては、実際さあ、どっちにしようかなと悩んでいる状況ではないかと思います。いま、ポリオのワクチンを受けないで様子を見ている方——IPVがもうすぐ来るようだからそれまで様子を見て、という方が増えているのは、これは事実です。その気持ちはよくわかりますけれども、ポリオの免疫がそこの地域の人の全体の8割を割ってきたときに、外から野生株ポリオウイルス(ポリオの原因ウイルス)が侵入すると、そこは流行が拡大する可能性がある、ということも考えておかなくてはなりません。WHOは、その点について日本に対して注意のメッセージを発信しています。

ポリオワクチンの接種率が下がったところで、実際に外国からポリオウイルスが持ち込まれて流行した例が最近もありました。日本からは少し遠い国ですがタジキスタン。一昨年、2011年タジキスタンで458名の麻痺患者がポリオと確定し、うち27名が死亡しています。ウイルスはインドから持ち込まれたと考えられています。ポリオというのは、下肢の麻痺だけではなく、呼吸筋の麻痺によって亡くなる病気です。また昨年2011年、中国では、同じようにポリオワクチン接種率が低下した新疆で、パキスタンから持ち込まれたポリオウイルスによって2名の死亡を含む22名のポリオ患者があきらかになっています。ですから、ワクチン接種率が80%を割ってきているというのは、実は日本は危険な状態と言ってもいいのです。突然一人ひとりの方が悪くなるわけでもないし、外から入ってくるチャンスはそんなにはあるわけはないから、直ちに、さあパニックというようなことになる必要はないですけれども、しかし、この状態は、仮に外国からポリオのウイルスが入ってきたときに対しての防備としては弱くなってきており、いわばドアの鍵が緩み始めている状態、と言っていいと思います。やはりポリオのワクチンは今、必要になります。

そのときにOPVを使うのが、危険か、ということですが、この10年間で生ポリオワクチンを使用した小児100万人当たり1.4人が、ポリオワクチンによるかもしれない麻痺として医療費の救済等を受けたという数字が厚労省から出ています。日本の年間の出生数は約120万人ですから、ポリオワクチンを生まれた子供全員が飲んでくれるとすると、1.7人くらいに生ワクチンによる麻痺が発生する、というような数になります。しかし、いま日本でこのままワクチン接種率が低下し、外からウイルスが持ち込まれた場合には、流行が拡大する可能性があるというのを考えれば、やはり不活化ワクチン導入までは、きちんと免疫を持っていただきたい、と私は考えます。

でも、そこが心配だという方は今一部で行われている個人輸入による不活化ポリオワクチンを受けていただいても良いと思います。ただし、国内での使用承認は得られておらず、もちろん検定も受けていないので、もしそのワクチンによるかもしれない事故があった場合には全く個人の責任になる、そういうことをよくご存じの医療機関と、お母さんあるいはお父さんとよく話し合って決められれば、それはそれで一つの選択できる方法だと思います。

ちょっと時間が長くなってしまいましたけれども、あらかじめ頂いたご質問の中に「一つの自治体だけ不活化ポリオワクチンをやったのはなぜか」というのがありました。それはその自治体の長が判断したことで、なかなか周囲が説明しにくいのですけれども、その自治体の知事が「わが県はこれをやる」と決断されたものです。でも、お金は有料ですし、もし何かあったときの救済はまだ決められていないし、国が安全性を公式に確認していないものを一自治体が、しかも医学・科学をご存じない方が決定したということに、私は不安を感じます。IPVはすでに海外で広く使われており、危険なワクチンでは決してありません。しかしたとえば、外国でできた車をそのまま個人が輸入し、車検も受けずに、ナンバーもとらないまま勝手に街を乗り回している、そのようなもののような気がします、あとの時間で、またご質問があったらお受けしたいと思います。以上です。ありがとうございました。

前川どうもありがとうございます。

月齢によって必要な予防接種の種類、それから、打ち方のスケジュールを非常にわかりやすくお話しいただけたと思います。

では、質問は後にしまして、次はいよいよ真打ちの登場でございます。横井先生が、開業医、園医の立場で現在の問題をいろいろお話しいただきます。

では、横井先生、よろしくお願いいたします。

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