横井あと、先生からポリオの話ですね。
岡部ポリオは話の中に幾つか含めておいたつもりですけれども、ポリオが不活化になるというニュースは伝わっているようですが、IPV——ジフテリア、ポリオ、百日せき、そして不活化ポリオワクチンという4種混合の中で日本に登場してくることになります。このワクチンが、先ほどお話しした、審査に取りかかり始めているところです。それに合格すると、今度は、つくったワクチンがちゃんとつくられているかどうかという検査(検定)を感染研でやります。それが合格すれば、そこからワクチンは本格的な製造に入って出てくる。厚生労働大臣は、それを秋までやりなさいとおっしゃったわけですけれども、うまくいけば秋までいく可能性はあります。
ただし学校などの試験と同じで、試験というのは、どんなにできる人でもちょっと悪いと落ちてしまうことがあります。そういうことを含めると、安全を持った言い方で年内かなと。したがって、来年の春のポリオシーズンには間に合わない。秋のシーズンがぎりぎり間に合うか、間に合わないか。来年の春のシーズンには登場してきてほしいと、我々は熱望していますけれども、そういう状態です。
では、現在ないから、そのまま待つかというのも最悪のチョイスで、IPVを勧めるというのはどうしてもお金がかかってしまいますけれども、IPVができる方はIPVでやっていい。そうではない方は、OPV(生ワクチン)を使っていただかないと、国内全体で危険度が高まると思います。ただしIPVはあくまで日本での承認が下りていないワクチンであるということを承知しておく必要があります。
質問の中でもう一つ、「うんちにウイルスが排泄されるけれども、不活化ワクチンの場合は排泄されないのでしょうか…」ということですが、これは間違いなく不活化ワクチンでは排泄されません。ですから、その分だけ保育園は楽になりますね。ポリオの接種をやった後は、「うんち…手を洗わなくちゃ」と。まあ、どっちみち手は洗わなければいけないんですけれども、そういう意味では少し気が楽になるかもしれない。
ポリオの生ワクチンはそこが特徴なのです。飲んでお腹の中でウイルスが増えるから、うんちの中にも出てきてしまう。長い場合だと、2週間から4週間ぐらい出てくることがあります。だから、集団でやって多くの人が受けていれば、少数の受けていない人がいても、うんちからウイルスが行くのだから、こっちの人もうつって免疫ができるでしょう、というのがもともとの考え方なのです。つまり、ワクチンを飲んでいない人にも自然に免疫ができる。そこはメリットの一つです。
でも、どんどん病気が少なくなってくると、今度はこれがデメリットの一つになって、ここでワクチンを飲んだ人がいて、飲んでいない人がいて、この人のウイルスがこっちの飲んでいない人のお腹の中に行ってしまった。普通は免疫ができるんですけれども、これがまた、500〜600万接種に1ぐらいでこの麻痺(二次感染麻痺)が出る。これも事実です。ですから、極めて稀なんだけれども、飲んでいない人に、飲んだ人からうつって麻痺が起きるということも、4年に一人くらいは出るということになります。稀ではあるけれど、そういうことも防ぐというのが不活化ワクチンに切りかえる意味になります。
以前は、ポリオのワクチンを飲んだ子が仮に麻痺を起こした場合は、これは救済になるけれども、誰かからうつってしまった場合、この人はワクチンのせいではないわけですね。だから、法律的にはこの人は救済ができないというのが以前のルールでしたけれども、それはやはりワクチンのせいといえるのではないか、ということになってこの人も救済になるという考えが取り入れられるようになりました。しかしこの救済も近い将来、不要になります。
そういうことですので、うんちの取り扱いは、生ワクチンの場合はそんなにぎりぎりすることはないと思うけれども、オムツの取り扱い、便の後始末——これは別にポリオでなくても、例えばO—157がはやったとき、ノロがはやったとき、全部共通ですから、何の病気ということではなく、やはり一般家庭でのオムツの取り扱いよりは集団生活の中ではより気をつけてやって、手洗いもきちんとやる必要はあると思います。
横井特に尿と便の取り扱いは、ポリオのワクチンを飲んだ子どもは別にしたほうが良いですか?
岡部まず、尿は大丈夫です。おしっこにポリオのウイルスは出てこないから、それは大丈夫ですけれども、オムツということで言えば、ちゃんと同じポリ袋なり何なりに入れて、きちっとふたを縛って、基本的にはこれは燃やしていくほうですから、何も医療のゴミ、病院内の注射器とかアルコールとか、そういうものと一緒の考えでやる必要はなくて、普通のゴミでいいと思います。ただし、ちゃんと縛って周りに漏れないようにというのは、これはO—157であろうが、ノロであろうが、全く共通だと思います。
横井あと、蛇口をひねって手を洗っていると、いくら洗っても、蛇口をこうやると蛇口が汚いんですね。ですから、できれば足で踏むタイプとか、肘でやるものとか、手を近づけると自動に出るとかにするのが保育園や幼稚園ではうつしにくいと思います。よく子どもに手洗いを教えていると、手がカサカサになっている子がいるんですね、冬場になって真面目に手洗いしている子。それはかわいそうなので、ちょっと手を出すと自然に出てくる形とか、足で踏むと出るとか、そういう形にしてもらったほうが、たぶん手洗い効果も上がると思います。そのあたりは保育園のほうで検討いただくと、違うと思います。
前川ポリオのことで、僕は予防接種リサーチセンターで電話相談をしていますけれども、1回、生ワクを飲んだ方が、次に不活化を飲みたいという電話がかかってくるのです。そのときに僕が答えているのは、ワクチン関連性マヒはほとんどの場合、1回目なので、「1回お飲みいただいたら、6週以上あいだをあけて、2回目をお飲みになったほうが得です」と、それでいいですか。
岡部もう既に生ワクチンを1回飲んでいる方が、「2回目どうしようかしら?」と心配するのは、これは、宝くじを買ったら絶対当たると思っている人と同じぐらい少ないことです(笑)。どのくらいかというと、1回目のポリオのときが、80万回に1回ぐらいというのはアメリカのデータで、日本が100万回に1回前後。2回目だと、これが500〜600万回に1回ぐらいになります。極めて稀だと思うので、そのぐらいであれば、お腹の免疫をきっちりつけておいたほうがいいと思います。
アメリカが不活化ポリオに切りかえるときの方法は、新しいポリオのワクチンがまだ生産できないから、みんなにやれないんですね。そのときは、1回目を不活化ポリオの注射をして、できれば2回目も不活化をやっておいて、アメリカは3回ですから、3回目を生ワクチンで免疫をする。合計3回から4回という考え方も同じなんですね。ですから、例えば外国から帰ってきた方で、「不活化1回で帰ってきたけれども、日本は生ポリオなので、どうしようか」というときは、「不活で一回やっているので安全度は高くなっていますから、あと2回やってください」という説明をしています。
切りかえのときに、いままでやった人をどういう形でやるかというのは実はまだ決定はされていません。これは、生産量と、いつワクチンがオーケーになるかによって変わってくるので、いまのところ、何通りかはありますけれども、そのどれかというのは決まっていません。しかし、それはやる前には決まりますから、慌てない。ただ、待つというのは最もよくない選択だということは、ちょっと繰り返しておきたいと思います。