前川横井先生、どうですか。大部分、終わりましたか。
横井はい、終わりました。
前川それでは、このまま終わるのは悪いから、あと一人か二人、いまの話で、特にわからないとか、予防接種に関することで質問があったらしていただけますか。どんなことでも結構です。
どうぞ。
(質問者)破傷風の三種混合が終わっていない子どもというのは、やはり土を触らないほうがいいのでしょうか。
岡部破傷風菌というのは日本はまだあちこちにあるんですね。いま、破傷風にかかる子どもさんが少ないのは、破傷風のワクチンをきちっと受けているからで、そういうワクチンがなかった時代に生まれて今に至った、(お三方を指して)この辺の年代が危ない(笑)ということになります。
いまのご質問は、破傷風を含めたDPTワクチンが十分にいっていない人がケガをした場合ですね。
(質問者)やっていない子どももいますので。
岡部通常の状態で感染することは稀なので、そこまで注意すると日常生活ができないと思うんですね。それよりは、「破傷風も含めたワクチンを打っておいたほうがいいのよ」という一言はあったほうがいいと思います。嫌だと言う人までにはなかなかできないのと、嫌だと言う人に、「土いじりはやめなさい」と言うのも何だと思いますから、そこまでは極端に言えないけれども、そのリスクはありますよということはおっしゃっておいたほうがいいと思います。
普通の土いじりではたぶんないと思いますけれども、例えばケガをしたときとか、特にジャリジャリの滑るようなキズとか、何かを踏み抜いてしまったとか、そういうケガをしたときには、破傷風ワクチンを受けていないことをちゃんと医者に伝えてください。そうすると、破傷風用のグロブリンという治療がすぐに始められるので、その分だけ早く治療が進むと思います。
ついでですけれども、東日本大震災で破傷風が危ないのではないかと言われましたけれども、ほとんどの方が免疫を持っているんですね、日本の場合は。東日本のあの地域のDPTの接種率というのはものすごくいいので、ああいうときに、そういうことが効いてくるわけです。ですから、日常のワクチンというのは、病気がなくても、受けていただくというのが大切ではないかと思います。
前川ほかにはよろしいですか。
岡部一つだけ、答え忘れたといいますか、漏れていたことがあります。
結核の予防ですけれども、「米国ではBCGを受けていないけれども、なぜでしょうか」と。アメリカは、「これは文化だから理解してほしい」と、お母さんがそういうことをおっしゃったというようなご質問ですけれども、先ほどBCGのところでちょっとお話ししたように、米国の結核というのは日本に比べるとガタ減りです。ずっと少ない。その状況から米国はBCGというのをやめた。BCGをやると、副反応としてリンパ節が腫れるとか、滅多にないけれども、骨の中にBCG菌が入ったとか、そういうことがあるので、この稀な部分を救うためにBCGをやめてしまったという経緯があります。
日本はそれに比べると、かなり少なくはなっていますが、BCGをやめていいほど結核は減少していないです。それから、早期発見によって治療には結びついたけれども、長期間薬を飲んだりするのは大変ですから、結核を防ぐという意味では日本はまだBCGが必要です。これは、「文化」というよりも、そこの地域での病気のあり方によって判断が変わってきます。
米国は逆にHIV感染、エイズの問題があって、エイズになると結核がグンと悪くなるんですね。ですから、小さいときからBCGが必要ではないかという医学的議論が行われています。もちろん、これは決定ではないです。以上です。
前川ありがとうございます。
今日話されたことは、ざっくばらんというか、私たちの本音というか、そういうお話がたくさんあったのではないかと思います。今日得た知識が、園における及び職員の予防接種の理解を深めて、子どもの感染症の予防に役立つことを願っております。
これをもちまして、本日のシンポジウムを終わらせていただきます。長時間、ありがとうございました。
事務局長時間にわたりまして、ご清聴ありがとうございました。
本日、とても熱心にご講演いただきました先生方に、改めて盛大な拍手をお願いいたします。(拍手)
〔閉 会〕
講師紹介
- 前川 喜平(まえかわ きへい)
- 神奈川県立保健福祉大学名誉教授
- 日本小児保健協会名誉会長
- 日本タッチケア研究会名誉会長
- 小児科と小児歯科の保健検討委員会長
- 東京慈恵会医科大学卒業後、同大学小児科教授、神奈川県立保健福祉大学教授を経て、2010年より衣笠老健施設長
- 1996年より(財)母子健康協会主催のシンポジウム総括を務める。同協会理事
- 主な著書に「小児神経と発達の診かた」(新興医学出版社)、「乳児検診の神経学的チェック法」(南山堂)、「小児の神経と発達の診かた」(新興医学出版社)など
- 岡部 信彦(おかべ のぶひこ)
- 国立感染症研究所感染症情報センター センター長
- (平成24年4月より、神奈川県川崎市衛生研究所 所長)
- 昭和46年 東京慈恵会医科大学卒業。同大学小児科で研修後、帝京大学小児科助手、その後慈恵医大小児科助手。
- 神奈川県立厚木病院小児科、都立北療育園小児科など勤務
- 昭和53〜55年 米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室 研究員(インフルエンザ生ワクチン、RSウイルス生ワクチン、先天性風疹症候群の研究など)
- 帰国後、国立小児病院感染科医員、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長
- 平成3年—平成7年 世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ市)伝染性疾患予防対策課課長。
- 平成7年 慈恵医大小児科助教授
- 平成9年 国立感染症研究所感染症情報センター・室長
- 平成12年 同上感染症情報センター長
- 東京慈恵会医科大学客員教授(小児科講座)北里大学大学院客員教授(感染制御学)早稲田大学理工学術院客員教授
- 首都大学東京客員教授(国際保健科学比較論)
- 厚生労働省厚生科学審議会予防接種部会部会長代理
- 厚生労働省厚生科学審議会予防接種審査分科会会長
- WHO西太平洋地域ポリオ根絶監視専門家会議副議長
- 日本小児科学会予防接種・感染対策担当理事
- 第14回日本ワクチン学会学術集会会長
- など
- 横井 茂夫(よこい しげお)
- 横井こどもクリニック:院長
- ・昭和24年、出生体重1800㌘の未熟児で生まれ、幼児期は熱ひきつけが十数回あって両親を心配させる。
- ・昭和50年 慈恵医大卒業後、国立大蔵病院・慈恵医大・都立母子保健院をへて、平成10年、横井こどもクリニック(世田谷)を開院する。
- 専門領域:子どもの発達神経学・小児保健・夜尿症
- 著書:共著を含む
- 「乳児健診における境界児の診かたと扱いかた(診断と治療社)」
「小児の発達栄養行動—摂食から排泄まで(医歯薬出版社)」
「始めての妊娠・出産・育児(西東社)」
「乳児保育(南山堂)」
「国試小児科(医学評論社)」
「育児ストレスがなくなるのびのび赤ちゃん育て(PHP研究所)」など。