財団法人母子健康協会 第32回シンポジウム 「保育に必要な予防接種の知識」
3.「小児科医・園医の立場から—複雑で接種しにくい日本の予防接種」
東京小児保険協会副会長 横井こどもクリニック院長 横井茂夫先生
横井皆さん、こんにちは。横井です。
予防接種についていろいろ言われます。僕は、「エチケットだよ」「自分の孫に打ってますよ」と説明します。僕が医者になったころにはまだ病気感染症はたくさんありましたが、いま、病気は減っています。
病気はどうやって防ぐかというと、先ほど前川先生がおっしゃったように、抗体ができない限りは病気は防げないです。感染症になる人は、病気に対する抗体を持たない人です。では、抗体をつける方法はどうするかというと、一つは、病気にかかるしかないです。
二つ目は、保育園でみんな一緒に生活しても、病気になる子とならない子、なるスタッフとならないスタッフがいます。これは何かというと、ならない人は、かかったのではなくて、実際にはほんのわずかかかって——不顕性感染と言いますが、ちょっとお腹の具合が悪かった、ちょっとノド痛かった、ちょっと熱っぽかったけど、という人がだいぶいるんです。こういうのは幸運な人で重い病気にならずに抗体を獲得する不顕性感染というものです。
そして、一番安全なのは予防接種です。ずっと防げるかというと、免疫を持たない限りはずっと逃げていなければいけないわけで、保育園においては無理ですね。ずっとガラス箱に入れておくわけにいかないです。それから言えば、できれば予防接種で……。私がいつもお母さん達に言うのは、「予防接種は自分の孫に打ってます」というのと、「これはエチケットです」と。
特に保育園では、水痘はまだ見ますけれども、麻疹(はしか)は、ここ10年ぐらい見なくなったと思います。これは岡部先生や感染症の専門家が、麻疹の予防接種を2回やりましょう、2回やりましょうと言って、皆さんたちの保育園や幼稚園の子どもたちがみんなやるようになって、麻疹はなくなったと思います。本当の麻疹を知っている年代というのは僕の年代です。以後、麻疹の予防接種を1回しかしなかった人たちは、高校生、大学生でときどき麻疹が出ましたが、2回予防接種することでなくなりました。
予防接種の効果について、日本ではありませんが、【表16】をご覧ください。これはアメリカのデータです。抗生剤——いま、抗生剤と言ってはいけないので。抗菌剤と言います——抗菌剤といってバイ菌に対する薬も、抗ウイルス剤もなくて、ワクチンがなかった時代が左側です。真ん中のところは、予防接種をアメリカではほぼ全員の人がしています。その結果、どのぐらい病気が減ったかというのは、天然痘、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻疹、おたふく風邪、先天性風疹症候群、Hib感染症・髄膜炎などがほとんどなくなりました。予防接種がいかに病気を減らしたかということを、まずお母さん方に伝えてください。